<複雑な現象をわかりやすく映像化します>

分娩異常状況を考慮した内診トレーニングシステム

 

産科医や助産師向けの、触覚(実体モデル)と視覚(仮想モデル)を用意し、内診指の位置や方向をリアルタイムに取得することで、正常・異常な状態をシミュレートする内診トレーニングシステムである。本システムでは,胎児骨盤内下降状態の正常と異常の状態が体験可能である。本研究成果は、(株)高研より、製品化され、2010年12月から販売された。

本システムを提案する背景には内診技術の習熟が困難だということ、産科医・助産師が不足していることが挙げられる。内診とは子宮や卵巣の状態(大きさや硬さ)を調べ、子宮がんの発見、また子宮口や胎児の状態(胎盤・臍帯の位置や胎児の向き・位置)を調べ、分娩時の方針決定に役立てる診断方法である。

従来のモデルだと、教員としては学生がどこを触れているのか判断しづらい、学生としては触れているところが正しいのか教員に確認できないという問題があった。

そこで本システムでは実態モデルとセンサーを組み合わせ、触れている場所を互いに確認できるようにしている。

 内診トレーニングシステム

本システムは,膣腔,子宮口などを含む人体模型と胎児模型(実体モデル),パーソナルコンピュータ(PC),磁気センサから成る。磁気センサは,トランスミッター(XMTR),位置センサ,コントローラ(Ascension Technology Corp.製miniBIRD)から構成される。

 システム構成

トランスミッターから発生する磁気情報を位置センサで検出し,その位置情報がパーソナルコンピュータに受け渡される。位置センサは,センサを固定できるようにシリコ-ンゴムで成型加工した指サック状のキャップに取りつけてあり,内診を行う2指(内診指:人差し指と中指)に装着する。

本システムがサポートしている正常時の分娩状況は、一指開大,二指開大,全開大,そして,タイプCの4種類である。異常時の分娩状況は,単臀位,全複臀位,前置胎盤,顔位の4種類であり,その他の状態も追加可能である。

 児頭モデル

表示モニタには,実体モデルと同じ寸法の形状モデル(仮想モデル:人体,内診指など)を表示させる。本システムの特徴は,内診指に磁気センサを装着することで,内診指の位置や方向をモニタ画面に表示可能な点である。そのため,被験者の内診の技量や正確さを視覚的にモニタ画面で確認できる。

内診トレーニングシステム 

実体モデル内部には,骨盤と胎児の実体モデルを組み込むためのガイドが用意されており,トレーニング前に,任意の胎児の実体モデルを装着する。仮想モデルの表皮部分の作成は,非接触3次元デジタイザにより計測し,適切な削減処理を行って,ポリゴン形状に変換するか,CAD(Computer Aided Design)システムやCG(Computer Graphics)システムを用いて,モデリングを行った。骨盤は,3次元CT装置で計測し,3次元画像を作成した。次に,その3次元画像から適切な平滑化処理を行い,等値面処理により,骨盤表面を生成した。胎児の実体モデルは,内診指の触る部分のみを計測又はモデリングし,赤ちゃんの全体像と同時に表示出来るようにしている。

胎児の実体モデルは,正常版と異常版の児頭の降下度に合わせて各4種類、合計8種類を用意している。実体モデルを装着した後,表示システムのダイアログから,選択した胎児モデル(仮想モデル)を選択し,位置センサ,実体モデル,仮想モデルの位置関係を調整する。表示コントロールでは,各構成モデルの表示選択,表示方法(Wireframe(ラインで表示)とシェーディング表示),透明度,表示色の設定が可能である。また,断面(左,右,前,後の4種)から選択して,内部も表示可能にしている。

異なった胎児の正常および異常状態は,以下の作業で,我々の内診システムへ組み込むことが可能である。

1)  胎児の実体モデルを作成

2)  その実体モデルを計測,またはモデリングすることで,仮想モデルを作成

3) 内診システムへ新しい実体モデルと仮想モデルを登録

胎児モデル

「胎位」とは,子宮内の胎児の向きを表現し,「縦位」,「横位」,「斜位」がある.「縦位」は,さらに頭の位置で,頭が下にある場合は「頭位」,骨盤が下にある場合は「骨盤位」(一般には逆子)と呼ばれる。頭位以外の体位はすべて異常となる。逆子のままで出産する場合は,5パーセント未満と言われている。逆子の出産は,頭が下になる姿勢(頭位と呼ばれる)に比べて,頭が出にくい場合やへその緒が圧迫される場合がある。逆子の場合,大きく,単臀位,複臀位,膝位,足位の4種類に分類される。

「膝位」は, お産のとき,膝の関節が曲がり,膝が下になっている(膝から先に進んでいる)状態であり,両膝なら全膝位,片膝なら不全膝位と呼ばれる。「足位」は,お産のとき,伸びた足から進んでいる状態である。逆子でも単臀位や複臀位なら自然分娩(経膣分娩)が可能な場合もあり,膝位や足位に進むにつれて,自然分娩が困難になり,帝王切開となる場合が多い 。

胎児モデル