<複雑な現象をわかりやすく映像化します>

フォースフィードバック付触覚デバイスを使用した鍼トレーニングシステムの開発

 

鍼治療の歴史は長く、二千年以上前に古代中国で誕生し、六世紀頃朝鮮半島経由で日本に伝来したとされています。また近年は予防医学の観点からも注目を集め、その重要性が見直されています。プロのはり師を育成するはり師養成施設では実際の鍼を用いた治療の実習が必須となっていますが、この実習は安全性の面から、初めに練習器を用いた訓練を行った後に学生同士の実習へと移行します。しかし通常の練習器の訓練は人体の構造をシミュレートしたものではないため、身体を想定した充分な練習が行われないままに人への実習に進んでいるのが現状です。

岩手県立大学ソフトウェア情報学部ではこうした状況を改善するため、花田学園日本鍼灸理療専門学校小川一先生と共同で、Windowsマシンとフォースフィードバック付触覚デバイスを用いた鍼治療トレーニングシステムの開発を行っています。人体の部位とツボを3次元データとして表示し、触覚デバイスの操作でツボに触れることによってフォースフィードバックが働き、鍼が人体に触れているかのように知覚できます。これにより、効果的な実習体験が期待できます。

 

~フォースフィードバック付触覚デバイスとは~

フォースフィードバック付触覚デバイスとは、パソコンに接続して使用する「触れている」感覚を体感できる装置のことです。付属のスタイラスの動きと画面上のカーソルの動きが連動しており、カーソルが他のオブジェクトに触れた場合に内蔵のモーターが作動し、手に触覚を伝えます。

 

 acupuncture_training_01図 1 触覚デバイスの例(Geomagic Touch)

 (※図1の画像は、Geomagic社のものを掲載しています)

 

~人体モデルの作成~

使用する人体モデルの3次元データは実際の人体をスキャンしたMRI画像データにツボを表す球体をマッピングした後、ポリゴンデータとして出力します。モデルは皮膚・筋肉・骨・ツボに分けて作成しています。

acupuncture_training_02-04図2 左上:球体マッピングとセグメンテーション、右上:ポリゴンデータ出力、下:完成した3Dモデル

 

~システムの機能~

システムの主な機能を以下に示します。

 

●モデルの回転、拡大縮小

モデルを任意の角度、大きさで表示することができます。

 

●鍼の刺入動作のシミュレーション

Geomagic Touch付属のスタイラス操作により、鍼の刺入動作のシミュレーションが可能です。鍼はツボに正しく刺入できたもの(緑→青)とできなかったもの(橙→赤)で色が異なるため、刺入動作の結果を視覚的に確認できます。

acupuncture_training_08-09図3  鍼の刺入(上:刺入中、下:刺入後)

 ●経穴情報の表示

ツボ毎に経穴情報を表示します。ツボに関する知識習得に役立ちます。

 acupuncture_training_10図4 経穴情報の表示

●モデルの透過表示

モデルを透過することにより、ツボと骨、筋肉との位置関係を容易に把握することができます。また、ツボを非表示にすることにより、より実際の鍼治療に近い形での練習が可能です。

acupuncture_training_11図5 モデルの透過表示

 ●触覚デバイスの対象空間への自動移動機能

鍼が移動可能な対象空間内にモデルを表示するために、刺入位置が正面にくるようにモデルを平行移動する機能です。これにより,刺入動作が行いやすくなります。

acupuncture_training_12図6 触覚デバイスの対象空間への自動移動機能(下は上の赤い○内のツボをクリックした結果)