くも膜下出血の診断において、医師は多くのスライス画像をチェックしなければならず、非常に多くの時間を必要とする。この作業を経験のある脳外科医は、脳のしわの部分に着目して診断している。そこで、脳のしわの部分における高輝度な画素を計測することで、くも膜下出血の危険率を算出するアルゴリズムを提案し、それにより医師の負担を軽減する事を目的とする。
経験のある脳外科医が微小なくも膜下出血を診断する際に脳溝に着目する点から、我々は脳領域全体を評価するのではなく、脳溝領域に特定することで、出血の有無の診断精度を高めるアプローチを試みた。
提案手法
1)患者のMR画像(2次元)を取得する。
2)領域拡張法を用いて患者の大脳の領域を求める。この時seed点とパラメータは対話的に設定する。
3)求めた大脳領域内の凸包と脳領域の差分を取り、脳溝の領域及び異なる輝度値の部分(脳室など)を抽出する。
4)脳溝を含む領域から血管の部分を取り除く。
5)ステップ4で抽出した領域における輝度の高さから、出血の度合いを算出し、くも膜下出血の危険度を算出する。
領域拡張法(Region Growing)は、注目している小領域とそれに隣接する小領域(あるいは画素)が与えられた制約を満たすとき、一つの領域に統合する処理を順次実行していくことで任意の領域を抽出する手法である。以下にこの手法を適用した図を示す。
脳溝の場所を得るために、まず脳領域を囲む包含領域を求める。ここでは2D変形モデルを面領域まで拡張した2D Active Netを利用する。これは円状の網を初期形状として与え、エネルギー最小化原理に基づく処理の繰り返しによって、抽出したい部位に網が近づいていく。
領域拡張法の結果に2D Active Netを適用し、網の部分を塗りつぶすことによって脳領域を囲む画像を生成する。
脳領域を囲む画像から領域拡張法の適用結果を引くことによって差分画像を得る。この画像領域は、脳溝部と大脳以外の領域(脳室など)を含んだ領域となっている。
最後に、元のMR画像及び差分領域を用いて、脳溝部を含んだ画像が得られる。この領域内の高輝度の画素を数えることによって、くも膜下出血の危険度を算出する。
比較のため健常者のMR画像に本手法を適用した例を示す
今後の課題
2次元MR画像から脳溝部分の輝度値を測ることによって、くも膜下出血の危険度を計算する手法を提案した。脳全体ではなく、脳溝に着目することでくも膜下出血の診断精度を向上させることが可能と思われる。
また、くも膜下出血の場合,脳溝部分のヒストグラムには共通のパターンがあることが判明した。また、しわの部分から血管部分を除去していないが、概ね良好な結果を得られることが判明した。
今後の課題としては、脳溝の自動抽出が挙げられる。現状では、抽出に領域拡張法を使用しているが、適切なSeed点の選択およびパラメータ設定は手動である。そのため、Symmetric Region Growingのような初期点選択を必要としない方法も有効であると思われる。
また、危険度を判定する際のしきい値は、ヒストグラムを見ながら手動で設定している。今後、MR画像の輝度値分布及びヒストグラム形状の分析によりしきい値設定の部分を自動化する必要がある。