<複雑な現象をわかりやすく映像化します>

患者に合わせて手術をガイドする整形外科手術支援に関する研究開発

国内の超高齢化により、骨粗鬆症による骨折や擦り減りによる変形性関節症等の発生件数が増加している。治療には、主に骨切り術や人工関節置換術が行われる。骨切り術は、生体関節を温存可能で、人工関節の耐久性やゆるみの問題がないため、患者の QOL(Quality Of Life)向上が期待される。しかしながら、手術の難易度が高いため、入念に術前計画を立案する必要がある。また、人工関節置換術においても、個々の患者によって異なる骨形態に対応して正確な設置を行うためには、詳細な術前計画が必須である。

現状では、CT/MRI画像から投影面(スライス画像)を用いた2次元ベースの術前計画が主体であり、奥行き方向や回旋などを考慮した3次元ベースの術前計画は使用するソフトウェアの機能不足や操作が難解であるため、十分に活用されていない。また、高度な骨切り術の技術習得には時間がかかり、熟達した医師が必要であるために手術可能な病院も限られている。
これらの問題を解決するために、我々はCT/MRI画像から骨領域を深層学習による骨や筋肉の自動抽出を行い、患者ごとに3次元ベースの術前計画を立案する。さらに、その術前計画に対応した手術補助ガイド(サージェリーガイド)製作が可能な「テイラーメイド整形外科手術支援システム」を研究開発する。

骨の自動抽出や術前計画策定には、熟練の経験値が高い専門医の知識や技能を取り込んで深層学習によるAI化を試みるため、従来の手作業による骨や筋肉抽出などの作業は必要としない。
サージェリーガイドは骨切り線やスクリューの穴が既に開いており、現場の医師はそのガイドに沿って手術を実施する。そのため、術中の医師の手術手技の上手い下手が起きにくい。これにより、正確な手術の実現だけではなく、医師の経験値の差を埋め、より高度な手術が提供できるようになる。また、手術時間の短縮や患者の体への負担軽減につなげられる。
サージェリーガイドに関しては、人工膝関節のサージェリーガイドを提供する海外企業がある。しかしながら、患者情報やそのCT画像を送付する必要があり、待ち時間や価格の面で十分普及していない。

2021年度は深層学習の機能拡張や性能向上を含めた研究の継続を行っている。具体的には、1)骨領域を自動抽出するための学習データの追加、2)ガンマ変換を用いたデータ拡張、3) 等方ボクセル化による性能亜向上、4)深層学習用ネットワークやパラメータの改良、5)JointVisionで行った手術計画をコマンド単位で保存機能の追加、6)手術手技の学習データの蓄積に向けた準備、である。1)の学習データの追加とは、新期のCT画像に対して、正解データを作成して、深層学習を行うことで、転移学習と呼ばれている。これまでの学習データで行った学習を強化することが可能である。2)のガンマ変換とは、γ関数を用いたトーンカーブによる輝度変換であり、画像の濃淡を任意のパラメータで自由に変化させて、学習データの水増しを行った。3)はボクセルの大きさを等しくする操作であり、Z方向が大きいCT画像に対して、3重線形補間を使って、x, y, z方向が等しいボクセルサイズに変換して、学習を行った。1), 2), 3)の作業は学習データが増加するため、深層学習の性能向上につながる。特に脊椎に関しては、学習データを作成することが困難であるため、脊椎の単体および連結した部分全体の自動抽出機能が医師の負担軽減に有効であることを確認した。

本事業では、熟練の医師の手術手技や経験値を反映しながら、既存のシステムよりも高速かつ高精度、低価格な手術支援ガイドが製作出来るので、社会課題の解決のみならず、各医療機関への手術に対する精度や安全度の向上に貢献することができる。